書き出し
麦の芽のいまだをさなき畑に向く八百屋の店は一ぱいの林檎深山路のもみぢ葉よりも色ふかく店の林檎らくれなゐめざまし立ちて見つつ愉しむ心反射して一つ一つの林檎のほほゑみみちのくの遠くの畑にみのりたる木の実のにほひ吾を包みぬ手にとればうす黄のりんご香りたつ熟れみのりたる果物の息すばらしき好運われに来し如し大きデリツシヤスを二つ買ひたり宵浅くあかり明るき卓の上に皿のりんごはいきいきとあるわがいのる人に言はれぬ祈りなどしみじみ交る林檎のにほひ...
底本
「燈火節」月曜社, 2004(平成16)年11月30日