書き出し
春の銀鼠色が朝の黒樺を南からさしのばした腕のように一直線に引っつかんで行く凍った褐色の堀割が、白いドローキの地平を一面に埋める―――ダッタン海峡!ふいに一匹の迷い栗鼠が雪林から海氷の割れ目え転げ落ちるとたん、半分浮絵になった銅チョコレート色の靄の中から、だ、だ、ただーんと大砲を打っ発した峡瀬をはさんで、一つの流れと海面からふき出した一つの島がある土人は黒龍江を平和の河と呼び、サハリンを平和の岩と呼んだかつて南北の帝国主義の凝岩がいがみ合...
底本
「槇村浩詩集」平和資料館・草の家、飛鳥出版室, 2003(平成15)年3月15日