書き出し
北海道の樺太「北海道のカラフト」みんな、そこの長屋をそう呼んでいた、谷間に並べ建てられたカラフト長屋、一日中ろくすっぽ陽があたらず、どっちり雪の積んでいる屋根から、煙突が線香を並べたように突き出ていた、俺は時々自分の入口を間違い、他家の戸口を開けた、屋根の煙突の何本目、そいつを数えて這入るのが一番完全であった「来年の四月頃になれば陽があたりますよ」古くから此処の長屋に住んでいる工夫の妻がそう言い俺達に聞かしてくれた。
初出
1931年
(「北緯五十度詩集」北緯五十度社、1931(昭和6)年11月)
底本
「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」新日本出版社, 1987(昭和62)年6月30日