書き出し
父の汚名を雪ぐ――大事な使命「お嬢様、大急ぎで鎌倉の翠川様の別荘へいらしって下さい」「どうしたの、爺や」「どうもしませんが、夏休になったら、泊りにいらっしゃるお約束じゃございませんでしたか」「でも、爺や一人で不自由な事はない?」「私はもう六十八ですもの、どんな事があったって驚きやしません」「まア、なんかあったの爺や」立花博士の遺児、今年十四になる綾子は、呆気に取られて正平爺やの顔を見詰めました。
初出
1934年
(「少女倶楽部」1934(昭和9)年6月〜8月)
底本
「野村胡堂探偵小説全集」作品社, 2007(平成19)年4月15日