ブンゴウサーチ
児童書版

五月の雉

蔵原伸二郎
『五月の雉』は青空文庫で公開されている蔵原伸二郎の短編作品。2,538文字で、おおよそ10分以内で読むことができます。
文字数
10分以内   2,538 文字
人気
  -- PV
書き出し
五月の雉風の旅びとがこつそり尾根道を通るここはしずかな山の斜面一匹の雌きじが卵を抱いている青いハンカチのように夕明かりの中をよぎる蝶谷間をくだるせせらぎの音ふきやもぐさの匂いが天に匂う(どこからも鉄砲の音などきこえはしない)一番高い山の端に陽がおちる乳いろのもやが谷々からのぼつてくるやがて、うす化粧した娘のような新月がもやの中からゆつくりと顔を出す――今晩は、きじの...
初出
1955年   (風の中で歌う空つぽの子守唄「詩学」1955(昭和30)年1月号)
底本
「近代浪漫派文庫 29 大木惇夫 蔵原伸二郎」新学社, 2005(平成17)年10月12日
表記
新字新仮名
※「人気」は青空文庫の過去10年分のアクセスランキングを集計した累計アクセス数から算出しています。

蔵原伸二郎 の人気作品

岩魚
蔵原伸二郎
岩魚――宋青磁浮紋双魚鉢――五月のあかるい昼さがりあまりに生の時間が重いので私はひとり青磁の鉢を見ている空いろの底に二匹の岩魚が見えたりかくれたりすぎる風に水がゆれると岩魚の背もかすかに紅いろに光るまた水底をよぎる遠い宋時代の雲ながい時間のかげりをひいて愁いの淵に岩魚はねむり時に目を醒ましてはねるといつのまにか蒼天をおよいでいる鮭白い皿の上の...
5分以内
蔵原伸二郎
めぎつね野狐の背中に雪がふると狐は青いかげになるのだ吹雪の夜を山から一直線に走つてくるその影凍る村々の垣根をめぐりみかん色した人々の夢のまわりを廻つて青いかげはいつの間にか鶏小屋の前に坐つている二月の夜あけ前とき色にひかる雪あかりの中を山に帰つてゆく雌狐狐はみごもつている黄昏いろのきつね山からおりて来た狐が村の土橋のあたりまでくる...
5分以内
五月の雉
蔵原伸二郎
五月の雉風の旅びとがこつそり尾根道を通るここはしずかな山の斜面一匹の雌きじが卵を抱いている青いハンカチのように夕明かりの中をよぎる蝶谷間をくだるせせらぎの音ふきやもぐさの匂いが天に匂う(どこからも鉄砲の音などきこえはしない)一番高い山の端に陽がおちる乳いろのもやが谷々からのぼつてくるやがて、うす化粧した娘のような新月がもやの中からゆつくりと顔を出す――今晩は、きじの...
10分以内
蔵原伸二郎
釣竿の影がうつつているこの無限の中で釣をする人はしつかり岩の上に坐つたままねむつているねむつたまま竿をにぎつている今日は川魚たちの祝祭日みんな青い時間の流れにそつてさがつている針を横目でにらみながら通りすぎる今までどうにか生き残つた魚たちの今日はお祭りなんだよ先頭を行く逞しい雄のあとを紅いろに着飾つた雌たちが一列になつておよいでゆく水底の砂にゆれる光る青空と白い雲...
5分以内