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60分以内で読める牧野信一の中編作品

青空文庫で公開されている牧野信一の作品の中で、おおよその読了目安時間が「60分以内」の中編59作品を、おすすめ人気順に表示しています。

(12,001〜24,000文字の作品を対象としています。読了時間は「400字/分」の読書スピードで計算した場合の目安です)
1〜50件 / 全59件
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おそく帰る時には兵野は玄関からでなしに、庭をまはつて椽側から入る習慣だつたが、その晩は余程烈しく泥酔してゐたと見へて、雨戸を閉めるのを忘れたと見へる。
横須賀にゐる妹(彼の妻の)のところで、当分彼の息子をあづかりたいと云つて寄越したのである。
凍てついた寒い夜がつゞいてゐた。
滝は、あまり創作(小説)のことばかり想つてゐるのが重苦しくなつたのでスケツチ箱をさげて散歩に出かけた。
都を遠く離れた或る片田舎の森蔭で、その頃私は三人の友達と共にジヤガイモや唐もろこしを盗んで、憐れな命をつないで居りました。
そのころ私は、文科の学生でありましたが、小説といふものにいさゝかの興味もなく――といふよりも小説の類ひを読んだことがなかつたので――主に西洋の哲学や科学の書に親しみ、興味と云へば星の観測ぐらゐのものでした。
窓下の溝川に蛙を釣に来る子供たちが、「今日は目マルは居ねえのか。
白雲は尽くる時無からん、白雲は尽くる時無からん……白雲は――。
医院を開いてゐた隆造の叔父が発狂して、それも他所目にはさうとも見られる程でもなかつたが職業柄もあつたし、家内の者達への狂暴は募るばかりで「酒癖が悪い」位ゐでは包み終せなくなつて、漸くのこと、三月ばかり前にS癲狂院へ入院させて以来――毎晩のやうに同じやうな叔母の愚痴話の相手になつて、隆造は夜を更さなければならなかつた。
糧食庫に狐や鼬が現れるので、事務所の壁には空弾を込めた大型の短銃が三つばかり何時でも用意してあつたが、事務員の僕と、タイピストのミツキイは、狐や鼬に備へるためではなく、夫々一挺宛の短銃を腰帯の間に備へるのを忘れたことはなかつた。
務めの帰途、村瀬は銀座へ廻つて、この間うちから目星をつけておいた濃緑地に虹色の模様で唐草風を織り出したネクタイを一本購つた。
私は、マールの花模様を唐草風に浮彫りにした銀の横笛を吹きずさみながら、………………おゝこれはこれノルマンデイの草原から長蛇船の櫂をそろへて勇ましく波を越えまた波と闘ひ月を呪ふ国に到着したガスコンの後裔………………と歌つた。
こんな沼には名前などは無いのかと思つてゐたところが、このごろになつてこれが鬼涙沼といふのだといふことを知つた。
図書館を出て来たところであつた、たゞひとりの私は――。
海の遠鳴りをきゝながら私は、手風琴を弾いてゐた。
和やかな初夏の海辺には微風の気合ひも感ぜられなかつた。
僕は、哲学と芸術の分岐点に衝突して自由を欠いた頭を持てあました。
滝が仕事を口にしはじめて、余等の交際に少なからぬ変化が現れて以来、思へば最早大分の月日が経つてゐる。
入社の辞〔『少女』〕私はこの七月から入社いたし皆様のために働くことゝなりました。
彼女等の夫々の父親からの依頼で二人の娘をそちらへおくることになつたから、彼女等を夫々オフイスの一員に加へて貰ひたい、詳しいことは当人達からきいての上で、山の見学を望んでゐる二人の幼い学生達に能ふだけの満足を与へて欲しい――。
玄奘三蔵法師が或日、孫悟空に向つて、「汝の勇と智は天上天下に許されてゐる、天の魔も地の鬼も、汝の黒一毛にも及ばない。
彼は、飲酒があまり体質に適してゐないためか、毎朝うがひをする時に、腹の中から多量の酒臭い不快な水を吐き出した。
天井の隅に、小さい四角な陽がひとつ、炎ゆるやうにキラキラと光つてゐた。
鵙(もず)の声が鋭くけたたましい。
頭の惡いときには、むしろ極めて難解な文字ばかりが羅列された古典的な哲學書の上に眼を曝すに如くはない――隱岐はいつも左う胸一杯に力んで、決して自分の部屋から外へ現れなかつた。
更に私は新しい原始生活に向うために、一切の書籍、家具、負債その他の整理を終ったが、最後に、売却することの能わぬ一個のブロンズ製の胸像の始末に迷った。
夜、眠れないと云つても樽野のは、それだけ昼間熟睡するからなので、神経衰弱といふわけではなかつた。
丘を隔てた海の上から、汽船の笛が鳴り渡つて来た。
白いらつぱ草の花が、涌水の傍らに、薄闇に浮んで居り、水の音が静かであつた。
二度つゞけて土曜日が雨だつた。
病弱者、遊蕩児、その他でも行末に戦人としての望みが持てさうもない子息達は凡て離籍して近隣の漁家や農家へ養子とするのが、昔その城下町の風習だつた。
槌で打たなければ、切り崩せない堅さの土塊であつた。
このごろ私は、ときどき音取かくからの手紙(代筆)を貰ふので、はぢめてその音取といふ苗字を知つた次第でありますが、それまではその人の姓名は怒山かく――かとばかりおもふて居りました。
「妾のところにも、Fさんを遊びに連れてお出でな。
どうして此処の座敷の欄間にはあのやうな扇があんな風に五つも六つもかゝげてあるんだらう!装飾の意味にしてはあくどすぎる!何となくわけあり気に見えるではないか?それにしてもあれは一体何に使ふものなのだらうか?扇子には違ひないが、あれを扇子に使ふ者は仁王より他にはあるまい!樽野は祖母の家に来る毎によくそんなことを思つたことがあるが、別段誰に訊ねようともしなかつた。
『ヒストリイ・オヴ・デビルズ』『デビルズ・デイクシヨナリイ』『クラシカル・マヂシアンズ・ボキアブラリイ・ブツク』私は、その頃右の如き表題の辞書を繙きながら、「クリステンダム物語」「ドクトル・フアウスタスの巡遊記」「ジークフリード遠征録」「セント・ジヨージ快挙録」その他の、これに類する種々の物語を耽読した。
「まつたく、ひどい音響だね!あれは――もう僕は、大抵慣れたつもりなんだが、だがさつぱり駄目だよ。
一九三四年、秋――伊豆、丹那トンネルが開通して、それまでの「熱海線」といふ名称が抹殺された。
或る朝、私が朝飯を済ませて煙草を喫してゐるとAが来て、あがらないで、「君、直ぐ散歩へ行かう、早く早く、直ぐ仕度をして呉れ。
“I chatter, chatter, as I flowTo join the brimming river,For men may come and men may go,But I go on for ever”………………うたでもうたつてゐないと絶え入りさうなので、私はあたりの物音を怕れながら、聴心器のゴム管で耳をおさへ、自分で自分の鼓動に注意するのであつたが、やがては川の流れの無何有に病らひ...
哄笑の声が一勢に挙つたかと思ふと、罵り合ひが始まつてゐる――鳥のやうな声で絶叫する者がある、女の悲鳴が耳をつんざくばかりに聞えたかと思ふと、男の楽し気な合唱が始まつてゐる――殴れ!とか、つまみ出してしまへ!とか、そんな凄まじい声がして、「あゝ、痛いツ!」「御免だ……」「救けて呉れ!」そんな悲鳴が挙つたりするので、これは容易ならぬ事件が起つたのか!と思つて誰しもちよいと立止つて様子を窺つたが、同時に軽い苦笑を浮べて行き過ぎてしまふのであつた。
たとへこの身は千里の山河を隔てようとも魂は離れはせぬぞよ。
停車場へ小包を出しに行き、私は帰りを、裏山へ向ふ野良路をたどり、待ち構へてゐた者のやうにふところから「シノン物語」といふ作者不明の絵本をとり出すと、それらの壮烈な戦争絵を見て吾を忘れ、誰はゞかることも要らぬ大きな声を張りあげて朗読しながら歩いてゐた。
「マダムの御気嫌はどう?今日は?」山崎の顔を見るなり私は、部屋の入口に突立つたまゝ凝つと、訊ねた。
あいつの本箱には、黒い背中を縦に此方向きにした何十冊とも数知れない学生時代のノート・ブツクが未だに、何年も前から麗々と詰つてゐる。
「あたしは酔ツぱらひには慣れてゐるから夜がどんなに遅くならうと、どんなにあなたが騒がうと今更何とも思はないが――」周子は、そんな前置きをした後に夫の滝野に詰つた。
うるはしくもまたおそろしき声もつ乙女ライン河の姫よ湖水に沈みたる鐘の響森の姫ラウデンデラインよ星の世界へ昇りたるケルンよさうして、花子さんも千代子さんも涙など流してはいけません皆なで一所にこれからは遊びませういつまでもこの美しい公園の中で第一章その序に……親しき人々よ、谷間に咲ける真白き花はわれらが為に開くなり、われらはそが花の香りを胸に飾りて、清麗な大空のもとを、...
蝉――テテツクス――ミユーズの下僕――アポロの使者――白昼の夢想家――地上に於ける諸々の人間の行状をオリムパスのアポロに報告するためにこの世につかはされた観光客――客の名前をテテツクスといふ――蝉。
「電灯を点けて煙草を喫かす、喫ひ終ると再び灯りを消してスツポリと夜着を頭から引き被る――真暗だ。
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