書き出し
『まつたくこれは奇態な本だ、※ディカーニカ近郷夜話※か?いつたい※夜話※とはなんだらう?何処かの蜜蜂飼かなんかがこんなものを世間へ発行しをつて!お蔭さまなことだよ!羽根ペンを拵らへるのにどれだけ鵞鳥を裸かにし、紙を漉くのにどれだけ襤褸くづをつかつたら堪能ができるのだらう!貴賤の別なく猫や杓子までが見やう見真似で、やたら無性に墨汁へ指を突つこんでも突つこんでも、まだ足りないのだ!あげくの果てには、こんなどこの馬の骨とも分らない蜜蜂飼風情までが、柄にもなく変な野心をおこすのだ!ま...
底本
「ディカーニカ近郷夜話 前篇」岩波文庫、岩波書店, 1937(昭和12)年7月30日