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近松秋江の全作品

青空文庫で公開されている近松秋江の全作品10篇を、おすすめ人気順で表示しています。

1〜10件 / 全10件
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……その女は、私の、これまでに数知れぬほど見た女の中で一番気に入った女であった。
あまり暖いので、翌日は雨かと思って寝たが、朝になってみると、珍らしくも一面の銀世界である。
伊賀國は小國であるけれども、この國に入るには何方からゆくにも相應に深い山を踰(こ)えねばならぬ。
私には、また旅を空想し、室内旅行をする季節となつた。
比叡山延暦寺の、今、私の坐つてゐる宿院の二階の座敷の東の窓の机に凭(よ)つて遠く眼を放つてゐると、老杉蓊鬱たる尾峰の彼方に琵琶湖の水が古鏡の表の如く、五月雨霽(ば)れの日を受けて白く光つてゐる。
夏が來て、また山の地方を懷かしむ感情が自然に私の胸に慘んでくるのを覺える。
二人の男の写真は仏壇の中から発見されたのである。
それからまた懊悩と失望とに毎日欝(ふさ)ぎ込みながらなすこともなく日を過していたが、もし京都の地にもう女がいないとすれば、去年の春以来帰らぬ東京に一度帰ってみようかなどと思いながら、それもならず日を送るうち一月の中旬を過ぎたある日のことであった。
そうして、それとともにやる瀬のない、悔しい、無念の涙がはらはらと溢(こぼ)れて、夕暮の寒い風に乾いて総毛立った私の痩せた頬(ほお)に熱く流れた。
拝啓お前――別れて了ったから、もう私がお前と呼び掛ける権利は無い。
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