宮本百合子の全作品

慈悲の女神、天使として、フロレンス・ナイチンゲールは生きているうちから、なかば伝説につつまれた存在であった。

何か物音がする……何か音がしている……目ざめかけた意識をそこへ力の限り縋（すが）りかけて、ひろ子はくたびれた深い眠りの底から段々苦しく浮きあがって来た。

去る十二月十九日午後一時半から二時の間に、品川に住む二十六歳の母親が、二つの男の子の手をひき、生れて一ヵ月たったばかりの赤ちゃんをおんぶして、山の手電車にのった。

カールの持った「三人の聖者」ドイツの南の小さい一つの湖から注ぎ出て、深い峡谷の間を流れ、やがて葡萄の美しく実る地方を通って、遠くオランダの海に河口を開いている大きい河がある。

一月三日〔巣鴨拘置所の顕治宛目白より（封書）〕一月三日第一信私たちの九年目の年がはじまります、おめでとう。

この社会に公明正大に生きてゆくためには、公私の別をよくわきまえていかなければならない。

世界平和大会へ日本の代表は行くことができなかった。

ここに一枚のスケッチがある。

一月二日〔巣鴨拘置所の顕治宛駒込林町より（封書）〕初春景物笹の根に霜の柱をきらめかせうらら冬日は空にあまねしこういう奇妙なものをお目にかけます。

隣の家の篠竹が根をはって、こちらの通路へほそい筍（たけのこ）を生やしている。

貧しき人々の群宮本百合子序にかえてＣ先生。

この作品は「新聞配達夫」とは又別の意味で一気に終りまで読ませ、しかもなかなかひきつけるところのある作品である。

パール・バック女史の問題のつかみ方は、さすがに作家らしくて、わたしにも皆さんにも同感されたのだと思います。

シルビア・シドニーが一人二役を見せどころとして主演した「三日姫君」という映画があった。

偉大な作家の生涯の記録とその作品とによって今日までのこされている社会的又芸術的な具体的内容は、常に我々にとって尽きぬ興味の源泉であるが、中でも卓越した少数の世界的作家の制作的生涯というものは、後代、文学運動の上に何かの意味で動揺・新たな方向への模索が生じた時期に、必ず改めて究明・再評価の対象として広汎な読者大衆の手にとりあげられるものであると思う。

今行われる少女小説について私は自分の荷にあまるほどいろいろの事を考えさせられるんです。

最近私の心を大きく搏ったことは久野久子さんの死です。

「愛と死」が、読むものの心にあたたかく自然に触れてゆくところをもった作品であることはよくわかる。

十二月二十七日湯ヶ島へ出立。

〔一月予記表〕「黄銅時代」第一完成一月一日（土曜）晴寒昨日夕方の六時頃漸々自分は此丈は間違わずにやってしまい度いと思って居た、「黄銅時代」の第一部の初稿を終った。

伸子は両手を後にまわし、半分明け放した窓枠によりかかりながら室内の光景を眺めていた。

貧困というものは、云ってみれば今日世界にみちている。

一月一日（土曜）〔書信〕大久保明子〔読書〕私は今日一日何も読まなかった事を恥じる。

日本の文学者では、夏目漱石や鴎外などまでが、自身の文学的教養の中に中国文化のあるものを消化していたのだろうと思う。

長篇「伸子」を書いたのは今から十年ばかり前のことで、完成までに三年位の時間がかかりました。

アメリカの女の夏の生活といっても、私の接触した範囲が極めて狭いので申上げるほどのことはありませんが……しかし、あの如何にも夏の休みを楽むような、愉快な女学生の生活はほんとに羨ましいと思います。

一月二日〔巣鴨拘置所の顕治宛目白より（封書）〕一月二日第一信さて、あけましておめでとう。

特に、此処で述べなければならないような所感も持合わせません。

具体的のことは実際出来て見なければわかりませんが、今年は少し仕事が出来そうなので悦んで居ります。

作家として困難な同時に意味ある仕事はこれからだ。

今年は、ひどく仕事ができませんでした。

日本服も洋服も、本ものなら負けず劣らず美しいからすきです。

「戦争と平和」のナタアシャ。

私は、平常あまり芝居を観ないためか特にとりたてて好きと云う俳優も知りません。

婦人文芸御発刊の由大慶に存じます。

情けないことだが、一時のこととしても親に左様ならという覚悟をするしかないでしょう。

主観的にはなしと思う。

書きつづけている「道標」を今年の半ばまでに書き上げ、更にその先にすすみたいと思います。

今年一年、特に後半は、私にとって、内的に、深く種々の変動あり、感銘を受けた時でした。

切角お尋ねを受けましたが、私は何も手芸を存じません。

御二方には未だ御目に掛った事もございませんが、お催しとしては結構で御座いましょう、只丁度五十歳前後の父を持って居ります自分には、何だか「もうお祝い？」というような心持が致します。

一、実に心を打れた驚き、同時に畏ろしい厳粛な心持。

私などは読みおとすというところまで参らず、土台読まないのや知らないのだらけであると思います。

今年は、九月の太陽に「我に叛く」を発表したぎりでございました。

さし当って誰れと云ってはっきり頭に浮びません。

一、蝦、鰒（ふぐ）類、うなぎ、肉類、新鮮な野菜（特に、うど、セレリー、チサ、若いなま胡瓜、よい玉葱）二、味のすっぱいものは食べられません。

修身は、子供の全生活からうける生活感情の整理ですから、大人の生活にまず修身し、人間的理解の確立がいると思います。

特に夏期の書斎としての注文も思い当りません。

商売というものの性質がすっかり変って来て、それは時代の動きによるものだということをはっきり知ってほしいと思います。

用紙節約から廃刊になるということはさけがたいことながらやはりそれぞれにつながる編輯者のこれ迄の御骨折りや読者の好意について感想を新しくいたします。