1時間〜で読める宮本百合子の長編作品

何か物音がする……何か音がしている……目ざめかけた意識をそこへ力の限り縋（すが）りかけて、ひろ子はくたびれた深い眠りの底から段々苦しく浮きあがって来た。

一月三日〔巣鴨拘置所の顕治宛目白より（封書）〕一月三日第一信私たちの九年目の年がはじまります、おめでとう。

一月二日〔巣鴨拘置所の顕治宛駒込林町より（封書）〕初春景物笹の根に霜の柱をきらめかせうらら冬日は空にあまねしこういう奇妙なものをお目にかけます。

隣の家の篠竹が根をはって、こちらの通路へほそい筍（たけのこ）を生やしている。

貧しき人々の群宮本百合子序にかえてＣ先生。

偉大な作家の生涯の記録とその作品とによって今日までのこされている社会的又芸術的な具体的内容は、常に我々にとって尽きぬ興味の源泉であるが、中でも卓越した少数の世界的作家の制作的生涯というものは、後代、文学運動の上に何かの意味で動揺・新たな方向への模索が生じた時期に、必ず改めて究明・再評価の対象として広汎な読者大衆の手にとりあげられるものであると思う。

〔一月予記表〕「黄銅時代」第一完成一月一日（土曜）晴寒昨日夕方の六時頃漸々自分は此丈は間違わずにやってしまい度いと思って居た、「黄銅時代」の第一部の初稿を終った。

伸子は両手を後にまわし、半分明け放した窓枠によりかかりながら室内の光景を眺めていた。

一月一日（土曜）〔書信〕大久保明子〔読書〕私は今日一日何も読まなかった事を恥じる。

一月二日〔巣鴨拘置所の顕治宛目白より（封書）〕一月二日第一信さて、あけましておめでとう。

処女の死と赤い提灯まだ二十を二つ越したばかりの若い処女が死んだ、弱い体で長い間肺が悪かっただけその短い生涯も清いものだった。

一月一日木夜、一時間。

十二月号の雑誌や新聞には、例年のしきたりで、いくたりかの作家・評論家によって、それぞれの角度から一九四九年の文壇が語られた。

三郎爺宮本百合子今からはもう、六十七八年もの昔まだ嘉永何年といった時分のことである。

玄関の大きい硝子戸は自働ベルの音を高く植込みのあたりに響かせながらあいた。

レーニングラードへ夜十一時。

昨年十月から今年の十月まで一年が経ちました。

――この頃は、ぼつぼつソヴェト映画が入って来るようだね。

一月七日（木曜）『文芸』に「迷いの末」横光の「厨房日記」批評を送る。

はしがき一、現在のソ同盟の労働者・農民の生活二、ソヴェト同盟の兄弟たちは、どんな闘争を通じて勝利を得たのか三、ソヴェト同盟の国家体制と日本の国家体制はしがき去る九月十八日、日本、満州国の全土にわたって、支配階級の命令に基いて、「満州事変」一週［＃「週」はママ］年記念の祝賀と示威が行われた。

黎明［＃「黎明」はゴシック体］（一八六〇―一九〇〇）一八六八年、フランス資本主義に後援されていた徳川幕府の最後の抵抗がやぶれた。

表玄関の受附に、人影がなかった。

一月一日（金曜）晴昨夜おそいので眠し。

――目に見える変化――ソヴェト文壇の空気はこの一二年に、ひどくかわった。

或る日、ユーラスはいつもの通り楽しそうな足取りで、森から森へ、山から山へと、薄緑色の外袍を軽くなびかせながら、さまよっていました。

時代中古、A.D. 十一世紀頃――A.D. 1077―A.D. 1095人物グレゴリオ七世ローマ法王ヘンリー四世ドイツ帝老人ヘンリー四世の守役を勤めた人九十以上の年になって居る。

一月二十九日（木）午前七時四十分急行で、宮、京都、河上肇記念。

我に叛く宮本百合子電報を受取ると同時に、ゆき子は、不思議に遽（あわただ）しい心持になってきた。

雑信（第一）Ｃ先生――。

千世子は大変疲れて居た。

手提鞄の右肩に赤白の円い飛行会社のレベルがはられた。

一月一日（日曜）起き初め普通の御飯のたべぞめ病院では元日には先生がた出て来る。

南路宮本百合子シューッ、シューッ、……ギー。

大正年代は、日本の文学界にもヨーロッパ大戦後の世界を洗いはじめたさまざまの文学的動きを、日本独特の土壤の上に成育させながら、極めて複雑な形で昭和に歩み進んだ。

春になってから沼の水はグッとふえた。

あっちこっちで帰り支度がはじまった。

そこは広い野原で、かなたに堤防が見えた。

やっと客間のドアのあく音がして、瑛子がこっちの部屋へ出て来た。

朝飯がすんで、雑役が監房の前を雑巾がけしている。

一月五日（月曜）山岡にかえって来る。

一月一日今年は好い正月な筈だ――と云うと少し可笑しいが、三十一日までは、何となしにぎやかで、快い正月になりそうな心持がして居た。

朝から、おぼつかない日差しがドンヨリ障子にまどろんで居る様な日である。

過去への瞥見今日の日本文学のありようは、極めて複雑である。

鴨青々した草原と葦の生えた沼をしたって男鴨は思わず玉子色の足をつまだてて羽ばたきをした。

一月一日火晴朝寒く、午後暖か。

一月六日（木曜）Ｙ、鈴木病院に胃を見て貰いにゆく。

大きな実験用テーブルの上には、大小無数の試験管、ガラス棒のつっこまれたままのビーカア。

冬枯の恐ろしく長い東北の小村は、四国あたりの其れにくらべると幾層倍か、貧しい哀れなものだと云う事は其の気候の事を思ってもじき分る事であるが、此の二年ほど、それどころかもっと長い間うるさくつきまとうて居る不作と、それにともなった身を切る様な不景気が此等みじめな村々を今一層はげしい生活難に陥れた。

四月十五日今晩は。

京でなうても御はなは咲いた恋の使の春の小雨がたよりもて来てそとさゝやけば花は恥らふてポト笑んだ京でなうても御はなはさいた。