書き出し
※一※おい木村さん信さん寄つてお出よ、お寄りといつたら寄つても宜いではないか、又素通りで二葉やへ行く氣(き)だらう、押かけて行つて引ずつて來(く)るからさう思ひな、ほんとにお湯なら歸(かへ)りに吃度よつてお呉れよ、嘘(うそ)つ吐きだから何を言ふか知れやしないと店先に立つて馴染らしき突かけ下駄の男をとらへて小言をいふやうな物の言ひぶり、腹も立たずか言譯しながら後刻に後刻にと行過るあとを、一寸舌打しながら見送つて後にも無いもんだ來(く)る氣(き)もない癖に、本當に女房もちに成つては...
初出
1895年
(「文藝倶樂部第九篇」1895(明治28)年9月20日)
底本
「文藝倶樂部第九篇」博文館, 1895(明治28)年9月20日