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萩原朔太郎の全作品(2ページ目)

青空文庫で公開されている萩原朔太郎の全作品178篇を、おすすめ人気順で表示しています。

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兵士の行軍の後に捨てられ破れたる軍靴のごとくに汝は路傍に渇けるかな。
物みなは歳日と共に亡び行く。
しよんぼり立つた麥畑、われのせつなさやるせなき、みぎむきや穗が光る、ひだりむきや穗が光る、しんじつわが身をどうせうぞ。
いたましき芽は伸びゆけり、春まだあさき土壤より、いとけなき草の芽生はうまれいで、そのこゑごゑはかしましく、はるる日中の、大空ふかくかがやけり。
けぶれる空に麥ながれ、麥ながれ、うれひをのせて汽車は行く。
俥にゆられつつ夕ぐれ時の街道を新町街道を急ぐ女よ眞赤な夕日は山の上白粉のゑりがさむしかろ今宵おん身の上に幸あれかし(一九一三・一〇・二〇)。
うすやみに光れる皿あり皿の底に蟲かくれ居て啜り鳴く晝はさびしく居間にひそみて鉛筆の心をけづるに疲れ夜は酒場の椅子にもたれて想ひにひたせる我が身の上こそ悲しけれ。
麥はさ青に延び行けり遠き畑の田作りの白き襦袢にえんえんと眞晝の光ふりそそぐ九月はじめの旅立ちに汽車の窓より眺むれば麥の青きに驚きて疲れし心が泣き出せり。
あなたのめぐみをもて雪をふらしてください、あなたのふしぎをもて牢獄の窓をあけてください、あなたのおほみこころのみまへに、わたくしの懺悔をささげまつる。
ひとのいのりはみなみをむき、むぎはいつしん、うをはいつしん、われはしんじつ、そらにうかびて、ゆびとゆびと哀しみつれ、たましひはねもごろにほとけをしたふ。
なにか知らねど泣きたさにわれはゆくゆく汽車の窓はるばるときやべつ畑に日は光り風見ぐるまきりやきりりとめぐる日にわれはゆくゆく汽車の窓なにか知らねど泣きたさに。
戀魚の身こそ哀しけれ、いちにちいよすにもたれつつ、ひくくかなづるまんどりん、夕ぐれどきにかみいづる、柴草の根はうす甘く、せんなや出窓の菫さへ、光り光りてたへがたし。
ああきみは情慾のにほふ月ぐさ、われははた憂愁の瀬川の螢、いきづかふ舟ばたの光をみれば、ゆふぐれのおめがの瞳にて、たれかまたあるはをしらむ、さざなみさやぎ、くちびるはそらをながるる。
愛妹のえりくびから一疋、瘋癲病院の窓から一疋、血えんのつかあなから一疋、いえすの素足から一疋、魚の背筋から一疋、殺人者の心臟から一疋、おれの磨いた手から一疋、遠い夜の世界で螢を一疋。
高い家根の上で猫が寢てゐる猫の尻尾から月が顏を出し月が青白い眼鏡をかけて見てゐるだが泥棒はそれを知らないから近所の家根へひよつこりとび出しなにかまつくろの衣裝をきこんで煙突の窓から忍びこまうとするところ。
黄菊はすでに散つてしまつた漕手よ船路を遠くかへつてくる時さびしい海鳥はますとに飛びかひ日は憂鬱の浪にただよふ。
うぐひすは金屬をもてつくられしそは畔の暗きに鳴き菫は病鬱の醫者のやうに野に遠く手に劇藥の鞄をさげて訪づれくる。
かなしければぞ、眺め一時にひらかれ、あがつまの山なみ青く、いただきは額に光る。
友だちはひどく歪んだ顏をしながら、虱(しらみ)に向つて話をした。
にくしん、にくしん、たれか肉身をおとろへしむ、既にうぐひす落ちてやぶれ、石やぶれ、地はするどき白金なるに、にくしん、にくしん、にくしんは蒼天にいぢらしき涙をながす、ああ、なんぢの肉身。
金のみ佛金の足一列流涕なしたまふ光る白日のうなべりにとをのおゆびを血はながれいたみてほそき瀧ながれしたたるものは血のしづくわれの戀魚の血のしづく光る眞如のうなべりに金のみ佛金の足一列流涕なしたまふ。
×千鳥あしやつこらさと來て見ればにくい伯母御にしめ出され泣くに泣かれずちんちろり柳の下でひとくさり×隣きんじよのお根ん性に打たれ抓められくすぐられじつと涙をかみしめる青い毛糸の指ざはり。
放蕩の蟲は玉蟲そつと來て心の底で泣く蟲夜としなればすずろにもリキユールグラスの端を這ふ蟲放蕩の蟲はいとほしや放蕩の蟲は玉蟲青いこころでひんやりと色街の薄らあかりに鳴く蟲三味線の撥(ばち)にきて光る蟲放蕩の蟲はせんなや。
さばかり悲しみたまふとや、わが長く叫べること、煉瓦の門に入りしこと、路上に草をかみしこと、なべてその日を忘れえず、いはむや君が來し方を指さし、かの遠望をしたたむる、あはれ、あはれ、わが古き街の午後の風見よ。
雨の降る日の縁端にわが弟はめんこ打つめんこの繪具うす青くいつもにじめる指のさき兄も哀しくなりにけり雨の降る日のつれづれに客間の隅でひそひそとわが妹のひとり言なにが悲しく羽根ぶとん力いつぱい抱きしめる兄も泣きたくなりにけり。
ああ秋も暮れゆくこのままに故郷にて朽つる我にてはよもあらじ草の根を噛みつつゆくものどの渇きをこらへんためぞ畠より疲れて歸り停車場の裏手なる便所のほとりにたたずめり日はシグナルにうす赤く今日の晝餉に何をたうべむ(故郷前橋にて)。
みどりをつらぬきはしる蛇、瀬川ながれをはやみゆき、ゆめと流れて瀧はおつ、たうたうたる瀧の水音、音なみさえ、主も遠きより視たまへば、銀の十字をかけまつる、我しもひとり瀧水の、若葉に靴を泳がして、念願せちに涙たる、念願せちに涙たる。
こほれる利根のみなかみに、ひねもす銀の針を垂れ、しづかに水に針を垂れ、さしぐみきたる冬を待つ。
いとしやいとしやこの身の影に鳴く蟲のねんねんころりと鳴きにけりたれに抱かれて寢る[#「寢る」は底本では「寝る」]身ぞや眞實我身は獨りもの三十になるといふその事の寂しさよ勘平さんにはあらねどもせつぷくしても果つべきかても因業なくつわ蟲。
なたねなの花は川邊にさけど遠望の雪午後の日に消えやらず寂しく麥の芽をふみて高き煉瓦の下を行くひとり路上に坐りつつ怒りに燃えこの故郷をのがれいでむと土に小石を投げあつる監獄署裏の林より鶫ひねもす鳴き鳴けり(滯郷哀語篇より)。
ちまた、ちまたを歩むともちまた、ちまたに散らばへる秋の光をいかにせむたそがれどきのさしぐめる我が愁をばいかにせむ捨身に思ふ我が身こそびいどろ造りと成りてましうすき女の移り香も今朝の野分に吹き散りて水は涼しく流れたり薄荷に似たるうす涙。
×えこそ忘れめやそのくちづけのあとやさき流るる水をせき止めしわかれの際の青き月の出×雨落し來らんとして沖につばなの花咲き海月は渚にきて青く光れり砂丘に登りて遠きを望むいま我が身の上に好しと思ふことのありけり。
我れのゆく路、菊を捧げてあゆむ路、いつしん供養、にくしんに血をしたたらすの路、肉さかな、きやべつの路、邪淫の路、電車軌道のみちもせに、犬、畜生をして純銀たらしむる、疾患せんちめんたる夕ぐれの路、ああ、素つぱだかの聖者の路。
×ほほづきよひとつ思ひに泣けよかし女のくちにふくまれて男ごころのさびしさをさも忍び音に泣けよかし×ほんのふとした一言から人が憎うてならぬぞえほんのその日の出來ごころつい張りつめた男氣がしんぞ可愛ゆてならぬぞえ。
くち惜しきふるまひをしたる朝あららんらんと降りしきる雪を冒して一目散にひたばしるこのとき雨もそひきたりすべてはくやしきそら涙あの顏にちらりと落ちたそら涙けんめいになりて走れよひたばしるきちがひの涙にぬれてあららんらんと吹きつけるなんのふぶきぞ青き雨ぞや。
×年ひさしくなりぬればすべてのことを忘れはてたりむざんなる哉かばかりのもよほしにさへ涙も今はみなもとをば忘れたり×人目を忍びて何處に行かん感ずれば我が身も老いたりさんさんと柳の葉は落ち來る駒下駄の鼻緒の上に落日は白くつめたし。
酒をのんでゐるのはたのしいことだ、すべての善良な心をもつひとびとのために、酒場の卓はみがかれてゐる、酒場の女たちの愛らしく見えることは、どんなに君たちの心を正直にし、君たちの良心をはつきりさせるか、すでにさくらの咲くころとなり、わがよき心の友等は、多く街頭の酒場にあつまる。
女は光る魚介のたぐひみなそこ深くひそめる聖像われ手を伸ぶれど浮ばせ給はずしきりにみどりの血を流しわれはおんまへに禮拜す遠くよりしも歩ませ給へばたちまち路上に震動し息絶ゆるまでも合掌すにちにち都に巡禮しもの喰(は)まざればみじめに青ざめおん前にかたく瞳をとづる。
人のにくしといふことばわれの哀しといふことばきのふ始めておぼえけりこの市の人なになればわれを指さしあざけるか生れしものはてんねんにそのさびしさを守るのみ母のいかりの烈しき日あやしくさけび哀しみて鐵橋の下を歩むなり夕日にそむきわれひとり(滯郷哀語篇より)。
かしこに煙の流るる空はつめたくして草はあたたかに萌えたり手はくみて歩めどもよそゆきの着物のにほひ侘しきに秋はうららに落ち來り日向に幹木の愁ちらばふ晝餉どき停車場のほとりに出でわづかなる水をたうべしに工人の居て遠き麥畑を指させり(一九一三、九、二四)。
手に釘うて、足に釘うて、十字にはりつけ、邪淫のいましめ、齒がみをなして我こたふ。
情緒よながい憂鬱のながれを視てゐるとあまりに私の眺望もさびしくなるこの日もすでにくれがた人生の影ながき厭生哲學の書物をひらけばああはやいみじくも芽ぐみきたる感情の昂進よさばかり情愁のみどりをふくめばさびしき思想の倉庫をひらき重たき黒の冥想の頭巾をとりて歩まんいざや歩み行かな。
遠く行く君が手に、胡弓の箱はおもからむ。
ああいかなればこそ、きのふにかはるわが身の上とはなりもはてしぞ、けふしもさくら芽をつのぐみ、利根川のながれぼうぼうたれども、あすは逢はれず、あすのあすとてもいかであはれむ、あなあはれむかしの春の、みちゆきの夢もありやなし、おとろへすぎし白雀の、わがゆびさきにきてしみじみとついばむものを。
赤城山の雪流れ出でかなづる如くこの古き町に走り出づひとびとはその四つ辻に集まり哀しげに犬のつるむを眺め居たりひるさがり床屋の庭に石竹の花咲きて我はいつもの如く本町裏の河岸を行くうなだれて歩むわが背後にかすかなる市人のささやききこえ人なき電車はがたこんと狹き街を走り行けり我が故郷の前橋。
あしきおこなひをする勿れわれはやさしきひとなればよるも楊柳の木影にうち伏しひとり居てダビテの詩をうたひなむわれは巡禮悲しき旅路にあるともわが身にそへる星をたのみてよこしまの道をな歩みそたとしへなく寂しけれどもよきひとはみなかくある者ぞかしわれはいとし子み神よ、めぐみをたれさせ給へ。
いろ青ざめて谷間をはしり、夕ぐれかけてただひとり、岩をよぢのぼれるの手は鋼鐵なり、ときすべて液體空氣の觸覺に、山山は茜(あかね)さし、遠樹に光る、わが偏狂の銀の魚、したたるいたみ、谷間を走りひたばしる、わが哀傷の岩清水、そのうすやみのつめたさに、やぶるるごとく齒をぬらす、やぶるるごとく齒をぬらす。
なじかは春の歩み遲くわが故郷は消え殘る雪の光れるわが眼になじむ遠き山山その山脈もれんめんと煙の見えざる淺間は哀し今朝より家を逃れいで木ぬれに石をかくして遊べるをみな來りて問ふにあらずばなんとて家路を教ふべきはやも晝餉になりぬれどひとり木立にかくれつつ母もにくしや父もにくしやとこそ唄ふなる。
小人若うて道に倦(う)んじ走りて隱者を得しが如く今われ山路の歸さ來つつ木蔭に形よき汝をえたり。
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