「物言ふ術」とは、仏蘭西語の ART DE DIRE を訳したつもりである。
「物言ふ術」とは、仏蘭西語の ART DE DIRE を訳したつもりである。
むっくり、むっくり、誰もとおらない田舍みちを、龜さんが荷物を首にくくりつけて旅をしていました。
むっくり、むっくり、誰もとおらない田舍みちを、龜さんが荷物を首にくくりつけて旅をしていました。
姓名の由來と順位わが輩はかつて『國語尊重』と題して、わが國(くに)固有の言語殊に固有名の尊重せ...
姓名の由來と順位わが輩はかつて『國語尊重』と題して、わが國(くに)固有の言語殊に固有名の尊重せらるべきゆゑんをのべた。
私はどうして陶磁器ならびに漆器などをつくるようになったか――みなさま大方はご存じのことと思いま...
私はどうして陶磁器ならびに漆器などをつくるようになったか――みなさま大方はご存じのことと思いますが、私は料理を始めてから、ここにこうして窯を築き、陶磁器ならびに漆器類を、みずからつくっています。
雑誌の創作欄が、昨日までは小説のみで埋められてゐたのに反し、読み物としての戯曲が可なりの頁数を...
雑誌の創作欄が、昨日までは小説のみで埋められてゐたのに反し、読み物としての戯曲が可なりの頁数を占めるやうになつた今日の時勢を、誰かゞ、名づけて戯曲時代と呼んでも、それは少しも不思議ではない。
子供は、自分のお母さんを絶対のものとして、信じています。
子供は、自分のお母さんを絶対のものとして、信じています。
年久しくその名を聞き、常に身辺にそれらしいものゝ影を見ながら、未だ嘗てその正体をしかと捉へるこ...
年久しくその名を聞き、常に身辺にそれらしいものゝ影を見ながら、未だ嘗てその正体をしかと捉へることの出来ないものに、風邪がある。
去年の十月だったか、十一月だったか、それさえどうしても思い出せない程にぼんやりした薄暗がりの記...
去年の十月だったか、十一月だったか、それさえどうしても思い出せない程にぼんやりした薄暗がりの記憶の中から、やっと手捜りに拾い出した、きれぎれの印象を書くのであるから、これを事実と云えば、ある意味では、やはり一種の事実であるが、またある意味では、いつか見た事のある悪夢の記録と同じ種類のものであって、決して厳密な意味の事実ではない。
古沼の水もぬるみ、蛙もそろそろ鳴き出す頃となりました。
古沼の水もぬるみ、蛙もそろそろ鳴き出す頃となりました。
明の古染付に対する大体の観察は上巻に於てこれを述べた。
明の古染付に対する大体の観察は上巻に於てこれを述べた。
猫の踊田中貢太郎老女は淋しい廊下を通って便所へ往った。
猫の踊田中貢太郎老女は淋しい廊下を通って便所へ往った。
なんの随筆の十枚くらい書けないわけは無いのであるが、この作家は、もう、きょうで三日も沈吟をつづ...
なんの随筆の十枚くらい書けないわけは無いのであるが、この作家は、もう、きょうで三日も沈吟をつづけ、書いてはしばらくして破り、また書いては暫くして破り、日本は今、紙類に不足している時ではあるし、こんなに破っては、もったいないと自分でも、はらはらしながらそれでも、つい破ってしまう。
前代文明の残溜地東海道の奥から、信州伊那谷へ通じてゐる道が、大体三通りあります。
前代文明の残溜地東海道の奥から、信州伊那谷へ通じてゐる道が、大体三通りあります。
鏡父かたの祖母は晩年の僅かをのぞいて、生涯の大半は田舎住居で過ごしたひとであった。
鏡父かたの祖母は晩年の僅かをのぞいて、生涯の大半は田舎住居で過ごしたひとであった。
山口県の「光」に鉄道の講演会に行った帰途であった。
山口県の「光」に鉄道の講演会に行った帰途であった。
この第八巻には、主としてソヴェト生活の見聞記があつめられている。
この第八巻には、主としてソヴェト生活の見聞記があつめられている。
斉藤平太は、その春、楢岡の町に出て、中学校と農学校、工学校の入学試験を受けました。
斉藤平太は、その春、楢岡の町に出て、中学校と農学校、工学校の入学試験を受けました。
見るということは、光の物理作用と、眼の知覚作用の総合作用だと誰でも考えているし、またそれにちが...
見るということは、光の物理作用と、眼の知覚作用の総合作用だと誰でも考えているし、またそれにちがいはない。
東京の家は爆弾でこわされ、甲府市の妻の実家に移転したが、この家が、こんどは焼夷弾でまるやけにな...
東京の家は爆弾でこわされ、甲府市の妻の実家に移転したが、この家が、こんどは焼夷弾でまるやけになったので、私と妻と五歳の女児と二歳の男児と四人が、津軽の私の生れた家に行かざるを得なくなった。
梅雨のうちに、花という花はたいていちってしまって、雨が上がると、いよいよ輝かしい夏がくるのであ...
梅雨のうちに、花という花はたいていちってしまって、雨が上がると、いよいよ輝かしい夏がくるのであります。
古図を閲覧するに当りて何人も抱く可き疑問は、其(その)図が輯製の当時既に知られたる事実を、果し...
古図を閲覧するに当りて何人も抱く可き疑問は、其(その)図が輯製の当時既に知られたる事実を、果して如何程まで広く採録せりや否やといえることなる可し。
豪放かつ不逞な棋風と、不死身にしてかつあくまで不敵な面だましいを日頃もっていた神田八段であった...
豪放かつ不逞な棋風と、不死身にしてかつあくまで不敵な面だましいを日頃もっていた神田八段であったが、こんどの名人位挑戦試合では、折柄大患後の衰弱はげしく、紙のように蒼白な顔色で、薬瓶を携えて盤にのぞむといった状態では、すでに勝負も決したといってもよく、果して無惨な敗北を喫した。
駆け出した、とても歩いたりしてはをられなかつたから――砂が猛々しく焦けてゐて誰にも到底素足では...
駆け出した、とても歩いたりしてはをられなかつたから――砂が猛々しく焦けてゐて誰にも到底素足では踏み堪へられなかつた。
七月四日、アメリカ合衆国の独立記念日、それとは何の関係もなしに、左の上の奥歯二枚が俄(にわか)...
七月四日、アメリカ合衆国の独立記念日、それとは何の関係もなしに、左の上の奥歯二枚が俄(にわか)に痛み出した。
本月もまた特に評論して見たいと思うほどの評論が見つからない。
本月もまた特に評論して見たいと思うほどの評論が見つからない。
最近「かげろふの日記」「ほととぎす」それから「姨捨」と續けて平安朝の女たちの日記に主題を求めて...
最近「かげろふの日記」「ほととぎす」それから「姨捨」と續けて平安朝の女たちの日記に主題を求めて短篇を書いてばかりゐますせゐか、屡※平安朝文學に就いて何か書けなどと言はれますので、どうも飛んだ事になつたと思つてゐます。
従来普通に特殊部落と云っておった我が同胞中の或る部族のことを、近ごろ内務省あたりでは、細民部落...
従来普通に特殊部落と云っておった我が同胞中の或る部族のことを、近ごろ内務省あたりでは、細民部落といっている。
上仏印問題、蘭印問題がわが国の関心事となり、近衛内閣はそれについて、満支、南洋をつつむ東亜新秩...
上仏印問題、蘭印問題がわが国の関心事となり、近衛内閣はそれについて、満支、南洋をつつむ東亜新秩序を示唆する声明を発した。
いつか暗くなった戸の外に、激しい雨風の音がする、嵐だ。
いつか暗くなった戸の外に、激しい雨風の音がする、嵐だ。
大東京の魅力に引かれ、すつかり心醉しながら、郷里の風光に思ひのおよぼすときになると、東京をみそ...
大東京の魅力に引かれ、すつかり心醉しながら、郷里の風光に思ひのおよぼすときになると、東京をみそくそにけなしつける人がある。
戊辰(ぼしん)正月、鳥羽伏見の戦で、幕軍が敗れたという知らせが、初めて桑名藩に達したのは、今日...
戊辰(ぼしん)正月、鳥羽伏見の戦で、幕軍が敗れたという知らせが、初めて桑名藩に達したのは、今日限りで松飾りが取れようという、七日の午後であった。
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