はしがき私は、その男の写真を三葉、見たことがある。
はしがき私は、その男の写真を三葉、見たことがある。
朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、「あ」と幽かな叫び声をお挙げになった。
朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、「あ」と幽かな叫び声をお挙げになった。
あわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、深夜...
あわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、深夜の帰宅にきまっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。
富士の頂角、広重の富士は八十五度、文晁の富士も八十四度くらゐ、けれども、陸軍の実測図によつて東...
富士の頂角、広重の富士は八十五度、文晁の富士も八十四度くらゐ、けれども、陸軍の実測図によつて東西及南北に断面図を作つてみると、東西縦断は頂角、百二十四度となり、南北は百十七度である。
変心文壇の、或(あ)る老大家が亡くなって、その告別式の終り頃から、雨が降りはじめた。
変心文壇の、或(あ)る老大家が亡くなって、その告別式の終り頃から、雨が降りはじめた。
あなたは文藝春秋九月号に私への悪口を書いて居られる。
あなたは文藝春秋九月号に私への悪口を書いて居られる。
[#ページの左右中央]津軽の雪こな雪つぶ雪わた雪みづ雪かた雪ざらめ雪こほり雪(東奥年鑑より)[...
[#ページの左右中央]津軽の雪こな雪つぶ雪わた雪みづ雪かた雪ざらめ雪こほり雪(東奥年鑑より)[#改丁]序編或るとしの春、私は、生れてはじめて本州北端、津軽半島を凡そ三週間ほどかかつて一周したのであるが、それは、私の三十幾年の生涯に於いて、かなり重要な事件の一つであつた。
撰(えら)ばれてあることの恍惚(こうこつ)と不安と二つわれにありヴェルレエヌ死のうと思っていた。
撰(えら)ばれてあることの恍惚(こうこつ)と不安と二つわれにありヴェルレエヌ死のうと思っていた。
桜が散って、このように葉桜のころになれば、私は、きっと思い出します。
桜が散って、このように葉桜のころになれば、私は、きっと思い出します。
作者の言葉この小説は、「健康道場」と称する或(あ)る療養所で病いと闘っている二十歳の男の子から...
作者の言葉この小説は、「健康道場」と称する或(あ)る療養所で病いと闘っている二十歳の男の子から、その親友に宛てた手紙の形式になっている。
本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。
本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。
海の岸辺に緑なす樫(かし)の木、その樫の木に黄金の細き鎖のむすばれて―プウシキン―私は子供のと...
海の岸辺に緑なす樫(かし)の木、その樫の木に黄金の細き鎖のむすばれて―プウシキン―私は子供のときには、余り質のいい方ではなかった。
[#ページの左右中央]わがあしかよわくけわしき山路のぼりがたくともふもとにありてたのしきしらべ...
[#ページの左右中央]わがあしかよわくけわしき山路のぼりがたくともふもとにありてたのしきしらべにたえずうたわばききていさみたつひとこそあらめさんびか第百五十九[#改ページ]四月十六日。
省線のその小さい駅に、私は毎日、人をお迎えにまいります。
省線のその小さい駅に、私は毎日、人をお迎えにまいります。
序唱神の焔(ほのお)の苛烈を知れ苦悩たかきが故に尊からず。
序唱神の焔(ほのお)の苛烈を知れ苦悩たかきが故に尊からず。
ぷつッと、ひとつ小豆粒に似た吹出物が、左の乳房の下に見つかり、よく見ると、その吹出物のまわりに...
ぷつッと、ひとつ小豆粒に似た吹出物が、左の乳房の下に見つかり、よく見ると、その吹出物のまわりにも、ぱらぱら小さい赤い吹出物が霧を噴きかけられたように一面に散点していて、けれども、そのときは、痒(かゆ)くもなんともありませんでした。
きょうの日記は特別に、ていねいに書いて置きましょう。
きょうの日記は特別に、ていねいに書いて置きましょう。
伊豆の南、温泉が湧き出ているというだけで、他には何一つとるところの無い、つまらぬ山村である。
伊豆の南、温泉が湧き出ているというだけで、他には何一つとるところの無い、つまらぬ山村である。
凡例一、わたくしのさいかく、とでも振仮名を附けたい気持で、新釈諸国噺という題にしたのであるが、...
凡例一、わたくしのさいかく、とでも振仮名を附けたい気持で、新釈諸国噺という題にしたのであるが、これは西鶴の現代訳というようなものでは決してない。
ことしの正月から山梨県、甲府市のまちはずれに小さい家を借り、少しずつ貧しい仕事をすすめてもう、...
ことしの正月から山梨県、甲府市のまちはずれに小さい家を借り、少しずつ貧しい仕事をすすめてもう、はや半年すぎてしまった。
私は、独りで、きょうまでたたかって来たつもりですが、何だかどうにも負けそうで、心細くてたまらな...
私は、独りで、きょうまでたたかって来たつもりですが、何だかどうにも負けそうで、心細くてたまらなくなりました。
これは日本の東北地方の某村に開業している一老医師の手記である。
これは日本の東北地方の某村に開業している一老医師の手記である。
はしがきこんなものが出来ました、というより他に仕様が無い。
はしがきこんなものが出来ました、というより他に仕様が無い。
小説と云うものは、本来、女子供の読むもので、いわゆる利口な大人が目の色を変えて読み、しかもその...
小説と云うものは、本来、女子供の読むもので、いわゆる利口な大人が目の色を変えて読み、しかもその読後感を卓を叩いて論じ合うと云うような性質のものではないのであります。
はるばると海を越えて、この島に着いたときの私の憂愁を思い給え。
はるばると海を越えて、この島に着いたときの私の憂愁を思い給え。
賭弓に、わななく/\久しうありて、はづしたる矢の、もて離れてことかたへ行きたる。
賭弓に、わななく/\久しうありて、はづしたる矢の、もて離れてことかたへ行きたる。
「忠直卿行状記」という小説を読んだのは、僕が十三か、四のときの事で、それっきり再読の機会を得な...
「忠直卿行状記」という小説を読んだのは、僕が十三か、四のときの事で、それっきり再読の機会を得なかったが、あの一篇の筋書だけは、二十年後のいまもなお、忘れずに記憶している。
※
マークのついた作品は著作権が存続しています。 詳細は
青空文庫公式サイトの取り扱い基準 をご確認のうえ、取り扱いの際は十分注意してください。