書き出し
住宅難の時節がら、桑田は出来ないことだとは知つてゐながら、引越す先があつたなら、現在借りてゐる二階を引払ひたいと思つて見たり、また忽気が変つて、たとへ今直ぐ出て行つて貰ひたいと言はれやうが、思のとゞくまではどうして動くものか、といふやうな気になつたりして、いづれとも決心がつかず、唯おちつかない心持で其日其日を送つてゐた。
初出
1949年
(「中央公論 文芸特集第一号」中央公論社、1949(昭和24)年10月1日)
底本
「荷風全集 第十九巻」岩波書店, 1994(平成6)年11月28日