書き出し
○たしか寺田寅彦氏の随筆に、猫のしっぽのことを書いたものがあって、猫にあゝ云うしっぽがあるのは何の用をなすのか分らない、全くあれは無用の長物のように見える、人間の体にあんな邪魔物が附いていないのは仕合せだ、と云うようなことが書いてあるのを読んだことがあるが、私はそれと反対で、自分にもあゝ云う便利なものがあったならば、と思うことがしば/\である。
初出
1948年
(「文学の世界」1948(昭和23)年10月号)
底本
「陰翳礼讃 改版」中公文庫、中央公論新社, 1975(昭和50)年10月10日