書き出し
わたしはこの頃しきりに考える自分というものについてわたしは下宿の二階に兄のくれる金で暮らしているそれはわずかな金だけれども兄の彼が夜ヒル書きつづける血のしたたりなのだわたしはそれで米や炭をととのえ腹を満たしているわたしの仕事は詩を書くこと、文学の途をゆくことになっているわたしは机に向かって本を読むあるいは書こうとするけれども書けないわたしはうっ伏して足りない才能をかなしむ心はたぎっても現わせないわ...
初出
1936年
(「詩人 第三巻第六号」文学案内社、1936(昭和10)年6月1日)
底本
「中野鈴子全詩集」フェニックス出版, 1980(昭和55)年4月30日