書き出し
門を閉ぢよ心を開け……それで私は表を閉めて裏の垣根を越えてきた蜜柑畠の間を拔けて海よお前の渚にかうして私は一人できたああ陽炎のもえる初夏の小徑眩(めくる)めく砂の上で海よ私は何を考へよう思出のやうにうすぐもつて藍鼠色にぼんやりした遙かなお前の水平線私はお前に向きあつて私は世間に背中を向ける門を閉ぢよ心を開け……それで私は表を閉めて裏の垣根を越えてきた海...
初出
1939年
(「婦人公論」1939(昭和14)年8月)
底本
「三好達治全集第一卷」筑摩書房, 1964(昭和39)年10月15日