書き出し
止める止めるとこぼしながらうまくゆかないのが多くの飲酒者の通例であるが、止めようと思つたら飲まなければ好いのにと僕は思ひそんなことは口にもせず飲みつゞけてゐたところ急に具合が悪くなつたので止めて見たところ、一向僕には未練もない、性根は余り酒好きでもなかつたのか知ら、他人の酔つてゐるのを見ても白々としたもので、自分も酔つてゐた時はあんな風だつたのか!と思つても別段羨しくもなければ、後悔もなく、まこと変哲のなさの至りである。
初出
1935年
(「Home line(ホーム・ライン) 第二巻第七号(十一月号)」玉置合名会社、1935(昭和10)年11月15日)
底本
「牧野信一全集第六巻」筑摩書房, 2003(平成15)年5月10日