書き出し
読むのがのろいからと心配して――これで僕は四ヶ月もつゞけて(三ヶ月間は、「早稲田文学」のために――)早く出るものからぼつ/\と読みはじめ、さて、いよ/\書かうといふ段になると、十日も前に読んだものゝ記憶は大ぶんあやしくなり、また繰ひろげて、あれこれと戸惑ひ、結局時間に追はれて半分も読み損つてしまふ有様は、まるでアダムスン漫画のやうであつた。
初出
1935年
(「読売新聞 第二〇九〇八号、第二〇九〇九号、第二〇九一〇号、第二〇九一二号」読売新聞社、1935(昭和10)年4月26日、27日、28日、30日)
底本
「牧野信一全集第六巻」筑摩書房, 2003(平成15)年5月10日