書き出し
日曜日のことでした、雄二の兄と兄の友達が鶴小屋の前で、鶴をスケッチしていました、雄二はそれを側で眺めながら、ひとりでこんなことを考えました……何んだい、僕だって描けますよ、鶴だって、犬だって、山の絵だって、駅だって、街の絵だって、みんな描けます、僕の眼にちゃんと見えるものなら、それをそのとおり描けばいいんだから、だからなんだって描けますよ、眼に見えないものだって、美しい美しい天国の絵だって、それもそのうち描けますよ雄二はだんだん素晴らしい気持になっていましたが、ふと何だか心配に...
初出
1951年
(「愛媛新聞」1951(昭和26)年2月号)
底本
「原民喜戦後全小説下」講談社文芸文庫、講談社, 1995(平成7)年8月10日