書き出し
ある人のもとにて紫式部と清少納言のよしあしいかになどいふ事の侍りし人は式部/\とたゞほめにほめぬしかあらんそれさる事ながら清はらのおもとは世にあはれの人也名家の末なれば世のおぼえもかろからざりしやしらず万に女ははかなき物なればはか/″\しき後見などもなくてはふれけむほどうしつらしなどみにしみぬべき事ぞ多かりけらしやう/\宮づかへに出初ぬる後宮の御いつくしみにさる人ありとしられ初て香爐峯の雪に簾をまくなど才たけたりとはかくしてぞあらはれぬ少納言は心づからと身をもてなすよりはかくあ...
底本
「樋口一葉全集 第三卷(下)」筑摩書房, 1978(昭和53)年11月10日