書き出し
おくみが厄介になつてゐるカッフェーは、おかみさんが素人の女手でやつてゐられる小さい店だけれど、あたりにかういふものがないので、ちよい/\出前もあるし、お客さまもぼつ/\来て下さるので、人目にはかなりにやつて行けるらしく見えたが、中へ這入つて見ればいろ/\あれがあつて、おかみさんは、月末になると、よく浮かない顔をして、ペンと帳面を手に持つたまゝ、茫(ぼん)やりと一つところを見つめてゐられるやうなことがあつた。
初出
1913年
(「国民新聞」1913(大正2)年7月~10月)
底本
「現代日本文學大系 29」筑摩書房, 1971(昭和46)年6月25日