書き出し
風邪でも引いたかといふ鹽梅に頭がはつきりしないので一旦目は醒めたがまた寢込んでしまつた、恐らく眠りも不足であつたのらしい、みんなはもう野らへ出たのであらう家の内はまことにひツそりして居る、霖雨つゞきの空は依然として曇つて居るが、いつもよりは稍明るいのであるから一日は降らないかも知れぬと思ひながらぼんやりと眺めて居つた、「サブリだもの屹度後には雨だよ、どんな旱でも今日明日と降らなかつたことは無いのだからと母はいつた、そんなことも有るものか知らんと自分は只聞き流し...
底本
「長塚節全集 第二巻」春陽堂書店, 1977(昭和52)年1月31日