書き出し
「親分、あっしは、気になってならねえことがあるんだが」「何だい、八、先刻から見ていりゃ、すっかり考え込んで火鉢へ雲脂をくべているようだが、俺はその方がよっぽど気になるぜ」捕物の名人銭形の平次は、その子分で、少々クサビは足りないが、岡っ引には勿体ないほど人のいい八五郎の話を、こうからかい気味に聞いてやっておりました。
初出
1932年
(「オール讀物」文藝春秋社、1932(昭和7)年5月号)
底本
「銭形平次捕物控(六)結納の行方」嶋中文庫、嶋中書店, 2004(平成16)年10月20日