書き出し
銭形平次はお上の御用で甲府へ行って留守、女房のお静は久し振りに本所の叔母さんを訪ねて、「しいちゃんのは鬼の留守に洗濯じゃなくて、淋しくなってたまらないから、私のようなものを思い出して来てくれたんだろう」などと、遠慮のないことを言われながら、半日油を売った帰り途、東両国の盛り場に差しかかったのは、かれこれ申刻(四時)に近い時分でした。
初出
1941年
(「オール讀物」文藝春秋社、1941(昭和16)年2月号)
底本
「銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入」嶋中文庫、嶋中書店, 2005(平成17)年6月20日