書き出し
秀吉金冠を戴きたりといえども五右衛門四天を着けたりといえども猿か友市生れた時は同じ乳呑児なり太閤たると大盗たると聾(つんぼ)が聞かば音は異るまじきも変るは塵(ちり)の世の虫けらどもが栄枯窮達一度が末代とは阿房陀羅経もまたこれを説けりお噺(はなし)は山村俊雄と申すふところ育ち団十菊五を島原に見た帰り途飯だけの突合いととある二階へ連れ込まれたがそもそもの端緒一向だね一ツ献じようとさされたる猪口をイエどうも私はと一言を三言に分けて迷惑ゆえの辞退を、酒席の憲法恥をかかすべからずと強いられてやっと...
初出
1891年
(「かくれんぼ」春陽堂、1891(明治24)年7月)
底本
「日本の文学 77 名作集(一)」中央公論社, 1970(昭和45)年7月5日