書き出し
岩魚――宋青磁浮紋双魚鉢――五月のあかるい昼さがりあまりに生の時間が重いので私はひとり青磁の鉢を見ている空いろの底に二匹の岩魚が見えたりかくれたりすぎる風に水がゆれると岩魚の背もかすかに紅いろに光るまた水底をよぎる遠い宋時代の雲ながい時間のかげりをひいて愁いの淵に岩魚はねむり時に目を醒ましてはねるといつのまにか蒼天をおよいでいる鮭白い皿の上の...
初出
1963年
(岩魚「詩苑」1963(昭和38)年<br> 落日「陽炎」1963(昭和38)年6月号<br> 西瓜畑「詩学」1955(昭和30)年1月号<br> 遠い友よ「中学生のための続・現代詩鑑賞」宝文館、...)
底本
「近代浪漫派文庫 29 大木惇夫 蔵原伸二郎」新学社, 2005(平成17)年10月12日