起きて見ると思ひの外で空には一片の雲翳も無い、唯吹き颪が昨日の方向と變りがないのみである、滑川...
起きて見ると思ひの外で空には一片の雲翳も無い、唯吹き颪が昨日の方向と變りがないのみである、滑川氏の案内で出立した、正面からの吹きつけで體が縮みあがるやうに寒い、突ンのめるやうにしてこごんだ儘走つた、炭坑會社の輕便鐵道を十町ばかり行つて爪先あがりにのぼる、左は崖になつて、崖の下からは竹が疎らに生えて居る、木肌の白い漆がすい/\と立ち交つて居る、漆の皮にはぐるつとつけた刄物の跡が見える、山芋の枯れた蔓が途中から切れた儘絡まつて居る、小豆畑といふ小村へ來た、槎※たる柿の大木...
新潟の停車場を出ると列車の箱からまけ出された樣に人々はぞろ/\と一方へ向いて行く。
新潟の停車場を出ると列車の箱からまけ出された樣に人々はぞろ/\と一方へ向いて行く。
余は旅行が好きである、年々一度は長途の旅行をしなければ氣が濟まぬやうになつた。
余は旅行が好きである、年々一度は長途の旅行をしなければ氣が濟まぬやうになつた。
泉州の堺から東へ田圃を越えるとそこに三つの山陵がある。
泉州の堺から東へ田圃を越えるとそこに三つの山陵がある。
叔父の案内で利根川の鮭捕を見に行くことになつた、晩飯が濟んで勝手元もひつそりとした頃もうよから...
叔父の案内で利根川の鮭捕を見に行くことになつた、晩飯が濟んで勝手元もひつそりとした頃もうよからうといふので四人で出掛けた、叔父は小さな包を背負つて提灯をさげる、それから河は寒いと可かないからと叔母が出して呉れた二枚のどてらを、うしろのちやんと呼ばれて居る五十格恰の男が引つ背負つてお供をする、これは提灯と二升樽とをさげる、從弟の十になる兒と自分とは手ぶらで蹤いて行く、荷物を背負つた二人の樣子が才藏か何かのやうだといふので下婢供が頻りに笑ひこけるのである、うらのとぼ口を出...
しらくちの花長塚節明治卅六年の秋のはじめに自分は三島から箱根の山越をしたことがある。
しらくちの花長塚節明治卅六年の秋のはじめに自分は三島から箱根の山越をしたことがある。
八月二十九日▲黄瓜松島の村から東へ海について行く。
八月二十九日▲黄瓜松島の村から東へ海について行く。
「一刀流神傳無刀流開祖從三位山岡鐵太郎門人」「鹿島神傳直心影流榊原建吉社中東京弘武會員」といふ...
「一刀流神傳無刀流開祖從三位山岡鐵太郎門人」「鹿島神傳直心影流榊原建吉社中東京弘武會員」といふ長々しい肩書のついた田舍廻りの撃劍遣ひの興行があるといふので理髮床や辻々の茶店に至るまでビラが下つた、撃劍の興行といふのが非常に珍らしいのにその中には女の薙刀つかひが居るといふのと、誰でも飛入の立合ができるといふのと、女の薙刀つかひを打負したものには銀側時計を呉れるといふことゝで界隈の評判になつた、興行の日は舊の三月三日で桃の節句をあて込みであつたが、生憎その日の空が怪しかつたので次の日へ日おく...
九月一日金華山から山雉の渡しを鮎川の港までもどつた。
九月一日金華山から山雉の渡しを鮎川の港までもどつた。
低い樅(もみ)の木に藤の花が垂れてる所から小徑を降りる。
低い樅(もみ)の木に藤の花が垂れてる所から小徑を降りる。
三月二日、月曜、晴、暖、起床平日よりはやし、冷水浴、宵に春雨が降つたらしく屋根が濕つて居る、し...
三月二日、月曜、晴、暖、起床平日よりはやし、冷水浴、宵に春雨が降つたらしく屋根が濕つて居る、しかし雫する程ではない、書院の庭にしきつめてある松葉は松もんもが交つてるので目障りであるがけさは濡れて居るからいかにも心持がよい、庭下駄を穿いてぶら/\とあるく、平氏門に片寄つてさうして戸袋にくつゝいた老梅が一株は蕾がちで二株は十分に開いて居る、蕾には一つづゝ露が溜つてその露が折々松葉の上に落ちる、五片六ひら散つて松葉にひつゝいてるのが面白い、まだ散る頃ではないから大方春雨の板...
刈草を積んだ樣に丸く繁つて居た野茨の木が一杯に花に成つた。
刈草を積んだ樣に丸く繁つて居た野茨の木が一杯に花に成つた。
奈良や吉野とめぐつてもどつて見ると、僅か五六日の内に京は目切と淋しく成つて居た。
奈良や吉野とめぐつてもどつて見ると、僅か五六日の内に京は目切と淋しく成つて居た。
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