宮本百合子の全作品（22ページ目）

いつでも黒い被衣を着て切下げて居た祖母と京都に行って居たのは丁度六月末池の水草に白い豆の様な花のポツリポツリと見え始める頃から紫陽花のあせる頃までで私にはかなり長い旅であった。

小村淡彩宮本百合子お柳はひどく酔払った。

太陽が照り出すと、あたりに陽気な雪解けの音が響きはじめた。

三月十日○晴れて、きつい西風。

桃子の座席から二列ばかり先が、ちょうどその二階座席へ通じる入り口の階段になっていた。

今日、私たちの精神には、人間性の復活と芸術再興の欲求がつよくおこっている。

藍子のところへ尾世川が来て月謝の前借りをして行った。

十月二十五日。

若い娘の命をとる事もまっしろな張のある体をめちゃめちゃにする事でも平気なかおでやってのける力をもった刀でさえ錦の袋に入った大店の御娘子と云うなよやかな袋に包まれて末喜の様な心もその厚い地布のかげにはひそんで何十年の昔から死に変り生きかわりした美くしい男女の夢から生れた様なあでやかさばかりを輝かせて育った娘の名はお龍と云う。

劇場の廊下で知り合いになってからどう気が向いたものか肇はその時紹介して呉れた篤と一緒に度々千世子の処へ出掛けた。

人間の哀れさが、漠然とした感慨となって石川の胸に浮ぶようになった。

昨年の後半期から、非常に恋愛論がとりあげられ、いろいろの雑誌・新聞の紙面がにぎわった。

きょう私たちが、結婚や家庭というものについて持っている大変複雑な感情や問題の本質はどういうところにあるだろうか。

不図眼がさめると、いつの間にか雨が降り出している。

こんにち、「勤労者文学」の問題が、とくべつの関心のもとにとりあげられるということは、全体として民主主義文学運動が、一つの新しい発展の段階にふみだして来ていることを語ると思う。

七月二十一日晴木の葉のしげみや花ずいの奥にまだ夜の香りがうせない頃に目が覚めた。

雨天体操場の前へ引き出された台の上から痩せぎすな連隊長の訓辞が終り、隊列が解けはじめると、四辺のざわめきと一緒にお茂登もほっと気のゆるんだ面持で、小学生が体操のとき使う低い腰かけから立ち上った。

私自身体が悪かったり病人があったりで、大会の準備に出席できませんでした。

暫く明いて居た裏の家へ到々人が来て仕舞った。

私は体を悪くして、去年の夏から、いろいろな講演をお断りしてまいりました。

一月一日木曜日なかなか寒いと思ったらチラチラ雪がふって来た。

十月下旬行われた作家同盟主催の文学講習会のある夜、席上でたまたま「亀のチャーリー」が討論の中心となった。

今日のこの場所は割合にせもうございますけれども、この前の第一回の時においで下さいました方は、よくくらべればおわかりになるでしょうが、この場所は何かクラブの集まりの場所には気持がよいと思います。

インガ・リーゼルは三十歳である。

現代は、一つの深刻で巨大な時期である。

十二月八日〔牛込区富久町一一二市ヶ谷刑務所の宮本顕治宛淀橋区上落合二ノ七四〇より（封書）〕第一信。

一つの芽生宮本百合子この一篇を我が亡弟に捧ぐもう四五日経つと、父のおともをして私も珍らしく札幌へ行くことになっていたので、九月が末になると、家中の者が寄り集って夕飯後を、賑（にぎ）やかに喋り合うのが毎晩のおきまりになっていた。

黄昏宮本百合子水口の硝子戸が、がらりと開いた。

今日のファシズムのありかたこの八月十五日には、四回目のポツダム宣言受諾の記念日がめぐってくるわけです。

題は「婦人の創造力」という、何となし難かしそうな題目ですけれども、話の内容はそうぎごちないものでなく、昔から女の人で小説を書いた人があります、そういう人の文学が日本の社会の歴史の中でどんな風に扱われて来たか、また婦人はどんな風に小説を書いて来たか、今日私どもはどんな小説を書きたいと思っているか、或は将来女の人がどんな小説を書けるような世の中になって行くだろうかという風なことを、お話してみたいと存じます。

電気時計が三十分ちかくもおくれていたのを知らなかったものだから、二人が省線の駅で降りた時分は、とうにバスがなくなっていた。

一九三〇年の夏のことだ。

二月の夜、部屋に火の気というものがない。

そのあたりには、明治時代から赤煉瓦の高塀がとりまわされていて、独特な東京の町の一隅の空気をかたちづくっていた。

今日、山本有三氏の読者というものは、随分ひろい社会の各層に存在していることであろうと思う。

大階段を降り切った右手のちょっと凹んだようなところで預けてあった書附をかえして貰うと、更に六つ七つの段々からウラル大理石を張った広間へぬけ、大きい重いガラス扉を体で押して外へ出た。

晩餐が終り、程よい時が経つと当夜の主人である高畠子爵は、「どれ――」と云いながら客夫妻、夫人を見廻し徐ろに椅子をずらした。

一九三四年のブルジョア文学の上に現れたさまざまの意味ふかい動揺、不安定な模索およびある推量について理解するために、私たちはまず、去年の終りからひきつづいてその背景となったいわゆる文芸復興の翹望に目を向けなければなるまいと思う。

去る十一月一日発行の『文学新聞』に評論家の佐藤静夫氏が三鷹事件の被告宮原直行さんの令兄にインタービューしたときのルポルタージュがのせられていた。

外はしとしとと茅葦には音もなく小雨がして居る。

一九三六年六月十八日。

加護宮本百合子お幾の信仰は、何時頃から始まったものなのか、またその始まりにどんな動機を持っているのか、誰も知る者はなかった。

この講座でわたしの受けもちは「文学と生活」である。

○パオリのこと○父と娘との散策○武藤のこと○貴婦人御あいての若い女○夢（二）○隣の職工の会話○夜の大雨の心持。

さあ、ちょっと机のごたごたを片よせて、（――コップは窓枠の前へでものせといてください。

先頃の『弘道』に掲載された「日本人の理想に吻合しない西洋人の家庭生活」と云う記事を読み、種々な感想の湧上るのを覚えました。

我が妹の亡き御霊の御前に只一人の妹に先立たれた姉の心はその両親にも勝るほど悲しいものである。

二月二十六日（水曜）〔欄外に〕所謂二・二六事件。

紺唐草の木綿布団をかけた炬燵（こたつ）のなかへ、裾の方三分の一ばかりをさし入れて敷いた床の上に中気の庄平が眠っていた。

これは自分が喋って速記をとったものです。