一瀬を低い瀧(たき)に颯(さつ)と碎(くだ)いて、爽かに落ちて流るゝ、桂川の溪流を、石疊で堰(...
一瀬を低い瀧(たき)に颯(さつ)と碎(くだ)いて、爽かに落ちて流るゝ、桂川の溪流を、石疊で堰(せ)いた水の上を堰(せき)の其(そ)の半ばまで、足駄穿で渡つて出て、貸浴衣の尻からげ。
上広告拙者昨夕散歩の際此(この)辺一町以内の草の中に金時計一個遺失致し候間御拾取の上御届け下さ...
上広告拙者昨夕散歩の際此(この)辺一町以内の草の中に金時計一個遺失致し候間御拾取の上御届け下され候御方へは御礼として金百円呈上可仕候月日あーさー、へいげんこれ相州西鎌倉長谷村の片辺に壮麗なる西洋館の門前に、今朝より建てる広告標なり。
近來の小説の文章は、餘程蕪雜になつたやうに考へられる、思想が大切であるのは言ふまでも無いが、粗...
近來の小説の文章は、餘程蕪雜になつたやうに考へられる、思想が大切であるのは言ふまでも無いが、粗笨な文章では思想が何んなに立派でも、讀者に通じはしまい、感じはしまいと思ふ。
鞠唄二坪に足らぬ市中の日蔭の庭に、よくもこう生い立ちしな、一本の青楓、塀の内に年経たり。
鞠唄二坪に足らぬ市中の日蔭の庭に、よくもこう生い立ちしな、一本の青楓、塀の内に年経たり。
この無題の小説は、泉先生逝去後、机辺の篋底に、夫人の見出されしものにして、いつ頃書かれしものか...
この無題の小説は、泉先生逝去後、机辺の篋底に、夫人の見出されしものにして、いつ頃書かれしものか、これにて完結のものか、はたまた未完結のものか、今はあきらかにする術なきものなり。
旅は此(これ)だから可い――陽氣も好と、私は熟として立つて視て居た。
旅は此(これ)だから可い――陽氣も好と、私は熟として立つて視て居た。
もとより何故という理はないので、墓石の倒れたのを引摺寄せて、二ツばかり重ねて台にした。
もとより何故という理はないので、墓石の倒れたのを引摺寄せて、二ツばかり重ねて台にした。
それ熱ければ梅、ぬるければ竹、客を松の湯の揚場に、奧方はお定りの廂髮(ひさしがみ)。
それ熱ければ梅、ぬるければ竹、客を松の湯の揚場に、奧方はお定りの廂髮(ひさしがみ)。
日本橋のそれにや習える、源氏の著者にや擬えたる、近き頃音羽青柳の横町を、式部小路となむいえりける。
日本橋のそれにや習える、源氏の著者にや擬えたる、近き頃音羽青柳の横町を、式部小路となむいえりける。
湯島の境内(婦系図―戯曲―一齣)※(みまわ)冴(さ)返る春の寒さに降る雨も、暮れていつしか雪と...
湯島の境内(婦系図―戯曲―一齣)※(みまわ)冴(さ)返る春の寒さに降る雨も、暮れていつしか雪となり、仮声使、両名、登場。
砂山を細く開いた、両方の裾が向いあって、あたかも二頭の恐しき獣の踞(うずくま)ったような、もう...
砂山を細く開いた、両方の裾が向いあって、あたかも二頭の恐しき獣の踞(うずくま)ったような、もうちっとで荒海へ出ようとする、路の傍に、崖に添うて、一軒漁師の小家がある。
米と塩とは尼君が市に出で行きたまうとて、庵(いおり)に残したまいたれば、摩耶も予も餓うることな...
米と塩とは尼君が市に出で行きたまうとて、庵(いおり)に残したまいたれば、摩耶も予も餓うることなかるべし。
わびしさ……侘(わび)しいと言ふは、寂しさも通越し、心細さもあきらめ氣味の、げつそりと身にしむ...
わびしさ……侘(わび)しいと言ふは、寂しさも通越し、心細さもあきらめ氣味の、げつそりと身にしむ思の、大方、かうした時の事であらう。
縁日柳行李橋ぞろえ題目船衣の雫浅緑記念ながら[#改ページ]縁日先年尾上家の養子で橘之助といった...
縁日柳行李橋ぞろえ題目船衣の雫浅緑記念ながら[#改ページ]縁日先年尾上家の養子で橘之助といった名題俳優が、年紀二十有五に満たず、肺を煩い、余り胸が痛いから白菊の露が飲みたいという意味の辞世の句を残して儚(はかの)うなり、贔屓(ひいき)の人々は謂(い)うまでもなく、見巧者をはじめ、芸人の仲間にも、あわれ梨園の眺め唯一の、白百合一つ萎んだりと、声を上げて惜しみ悼まれたほどのことである。
年紀は少いのに、よっぽど好きだと見えて、さもおいしそうに煙草を喫みつつ、……しかし烈しい暑さに...
年紀は少いのに、よっぽど好きだと見えて、さもおいしそうに煙草を喫みつつ、……しかし烈しい暑さに弱って、身も疲れた様子で、炎天の並木の下に憩んでいる学生がある。
一月うまし、かるた會(くわい)に急ぐ若き胸は、駒下駄も撒水に辷(すべ)る。
一月うまし、かるた會(くわい)に急ぐ若き胸は、駒下駄も撒水に辷(すべ)る。
上總國上野郡に田地二十石ばかりを耕す、源五右衞と云(い)ふ百姓の次男で、小助と云(い)ふのがあつた。
上總國上野郡に田地二十石ばかりを耕す、源五右衞と云(い)ふ百姓の次男で、小助と云(い)ふのがあつた。
上こゝに信州の六文錢は世々英勇の家なること人の能く識る處(ところ)なり。
上こゝに信州の六文錢は世々英勇の家なること人の能く識る處(ところ)なり。
僕は雅俗折衷も言文一致も、兩方やツて見るつもりだが、今まで經驗した所では、言文一致で書いたもの...
僕は雅俗折衷も言文一致も、兩方やツて見るつもりだが、今まで經驗した所では、言文一致で書いたものは、少し離れて見て全躰の景色がぼうツと浮ぶ、文章だと近く眼の傍へすりつけて見て、景色がぢかに眼にうつる、言文一致でごた/\と細かく書いたものは、近くで見ては面白くないが、少し離れて全躰の上から見ると、其の場の景色が浮んで來る、油繪のやうなものであらうか、文章で書くとそれが近くで見てよく、全躰といふよりも、一筆々々に面白みがあるやうに思はれる、是れはどちらがいゝのだか惡いのだか、自分は兩方やツて見...
傳(つた)ふる處(ところ)の怪異の書、多くは徳育のために、訓戒のために、寓意を談じて、勸懲の資...
傳(つた)ふる處(ところ)の怪異の書、多くは徳育のために、訓戒のために、寓意を談じて、勸懲の資となすに過ぎず。
小説を作る上では――如何しても天然を用ゐぬ譯には行かないやうですね。
小説を作る上では――如何しても天然を用ゐぬ譯には行かないやうですね。
彼處に、遙(はるか)に、湖の只中なる一點のモーターは、日の光に、たゞ青瑪瑙の瓜(うり)の泛(う...
彼處に、遙(はるか)に、湖の只中なる一點のモーターは、日の光に、たゞ青瑪瑙の瓜(うり)の泛(うか)べる風情がある。
夜は、はや秋の螢(ほたる)なるべし、風に稻葉のそよぐ中を、影淡くはら/\とこぼるゝ状あはれなり。
夜は、はや秋の螢(ほたる)なるべし、風に稻葉のそよぐ中を、影淡くはら/\とこぼるゝ状あはれなり。
世の中何事も不思議なり、「おい、ちよいと煙草屋の娘はアノ眼色が不思議ぢやあないか。
世の中何事も不思議なり、「おい、ちよいと煙草屋の娘はアノ眼色が不思議ぢやあないか。
四五年といふもの逗子の方へ行つてゐたので、お花見には御無沙汰した。
四五年といふもの逗子の方へ行つてゐたので、お花見には御無沙汰した。
私が作物に對する用意といふのは理窟はない、只好いものを書きたいといふ事のみです。
私が作物に對する用意といふのは理窟はない、只好いものを書きたいといふ事のみです。
色といえば、恋とか、色情とかいう方面に就いての題目ではあろうが、僕は大に埒外に走って一番これを...
色といえば、恋とか、色情とかいう方面に就いての題目ではあろうが、僕は大に埒外に走って一番これを色彩という側に取ろう、そのかわり、一寸仇ッぽい。
村夫子は謂(い)ふ、美の女性に貴ぶべきは、其面の美なるにはあらずして、単に其意の美なるにありと。
村夫子は謂(い)ふ、美の女性に貴ぶべきは、其面の美なるにはあらずして、単に其意の美なるにありと。
御馳走には季春がまだ早いが、たゞ見るだけなら何時でも構はない。
御馳走には季春がまだ早いが、たゞ見るだけなら何時でも構はない。
雨の日のつれ/″\に、佛(ほとけ)、教へてのたまはく、昔某の國(くに)に一婦ありて女を生めり。
雨の日のつれ/″\に、佛(ほとけ)、教へてのたまはく、昔某の國(くに)に一婦ありて女を生めり。
橘南谿が東遊記に、陸前国苅田郡高福寺なる甲胄堂の婦人像を記せるあり。
橘南谿が東遊記に、陸前国苅田郡高福寺なる甲胄堂の婦人像を記せるあり。
牛屋の手間取、牛切りの若いもの、一婦を娶(めと)る、と云(い)ふのがはじまり。
牛屋の手間取、牛切りの若いもの、一婦を娶(めと)る、と云(い)ふのがはじまり。
いまも中六番町の魚屋へ行つて歸(かへ)つた、家内の話だが、其家の女房が負ぶをして居る、誕生を濟...
いまも中六番町の魚屋へ行つて歸(かへ)つた、家内の話だが、其家の女房が負ぶをして居る、誕生を濟(す)ましたばかりの嬰兒(あかんぼ)に「みいちやん、お祭は、――お祭は。
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