東京の下町と山の手の境い目といったような、ひどく坂や崖の多い街がある。
東京の下町と山の手の境い目といったような、ひどく坂や崖の多い街がある。
今は兎(うさぎ)たちは、みんなみじかい茶色の着物です。
今は兎(うさぎ)たちは、みんなみじかい茶色の着物です。
ぷつッと、ひとつ小豆粒に似た吹出物が、左の乳房の下に見つかり、よく見ると、その吹出物のまわりに...
ぷつッと、ひとつ小豆粒に似た吹出物が、左の乳房の下に見つかり、よく見ると、その吹出物のまわりにも、ぱらぱら小さい赤い吹出物が霧を噴きかけられたように一面に散点していて、けれども、そのときは、痒(かゆ)くもなんともありませんでした。
異常な興奮を求めて集った、七人のしかつめらしい男が(私もその中の一人だった)態々其為にしつらえ...
異常な興奮を求めて集った、七人のしかつめらしい男が(私もその中の一人だった)態々其為にしつらえた「赤い部屋」の、緋色の天鵞絨で張った深い肘掛椅子に凭(もた)れ込んで、今晩の話手が何事か怪異な物語を話し出すのを、今か今かと待構えていた。
「ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、さそりの赤眼が見えたころ、四時から今朝もやって来た。
「ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、さそりの赤眼が見えたころ、四時から今朝もやって来た。
初めの間は私は私の家の主人が狂人ではないのかとときどき思った。
初めの間は私は私の家の主人が狂人ではないのかとときどき思った。
もう何年か前、ジェノアの少年で十三になる男の子が、ジェノアからアメリカまでただ一人で母をたずね...
もう何年か前、ジェノアの少年で十三になる男の子が、ジェノアからアメリカまでただ一人で母をたずねて行きました。
伊豆の南、温泉が湧き出ているというだけで、他には何一つとるところの無い、つまらぬ山村である。
伊豆の南、温泉が湧き出ているというだけで、他には何一つとるところの無い、つまらぬ山村である。
[#ページの左右中央]Nil sapienti※ odiosius acumine nimio...
[#ページの左右中央]Nil sapienti※ odiosius acumine nimio.(叡智にとりてあまりに鋭敏すぎるほど忌むべきはなし)セネカ(1)[#改ページ]パリで、一八――年の秋のある風の吹きすさぶ晩、暗くなって間もなく、私は友人C・オーギュスト・デュパンと一緒に、郭外サン・ジェルマンのデュノー街三十三番地四階にある彼の小さな裏向きの図書室、つまり書斎で、黙想と海泡石のパイプとの二重の...
死のふは一定、しのび草には何をしよぞ、一定かたりをこすよの――信長の好きな小唄――立入左京亮が...
死のふは一定、しのび草には何をしよぞ、一定かたりをこすよの――信長の好きな小唄――立入左京亮が綸旨二通と女房奉書をたずさえて信長をたずねてきたとき、信長は鷹狩に出ていた。
その頃私は或(あ)る気紛れな考から、今迄自分の身のまわりを裹(つつ)んで居た賑(にぎ)やかな雰...
その頃私は或(あ)る気紛れな考から、今迄自分の身のまわりを裹(つつ)んで居た賑(にぎ)やかな雰囲気を遠ざかって、いろいろの関係で交際を続けて居た男や女の圏内から、ひそかに逃れ出ようと思い、方々と適当な隠れ家を捜し求めた揚句、浅草の松葉町辺に真言宗の寺のあるのを見附けて、ようよう其処の庫裡の一と間を借り受けることになった。
「珍らしい話とおっしゃるのですか、それではこんな話はどうでしょう」ある時、五、六人の者が、怖い...
「珍らしい話とおっしゃるのですか、それではこんな話はどうでしょう」ある時、五、六人の者が、怖い話や、珍奇な話を、次々と語り合っていた時、友だちのKは最後にこんなふうにはじめた。
昔、しなの都に、ムスタフという貧乏な仕立屋が住んでいました。
昔、しなの都に、ムスタフという貧乏な仕立屋が住んでいました。
一、山小屋鳥の声があんまりやかましいので一郎は眼をさましました。
一、山小屋鳥の声があんまりやかましいので一郎は眼をさましました。
この間日本へ立寄ったバートランド・ラッセルが、「今世界中で一番えらい人間はアインシュタインとレ...
この間日本へ立寄ったバートランド・ラッセルが、「今世界中で一番えらい人間はアインシュタインとレニンだ」というような意味の事を誰かに話したそうである。
去年、小林秀雄が水道橋のプラットホームから墜落して不思議な命を助かったという話をきいた。
去年、小林秀雄が水道橋のプラットホームから墜落して不思議な命を助かったという話をきいた。
何か事情があって、川開きが暑中を過ぎた後に延びた年の当日であったかと思う。
何か事情があって、川開きが暑中を過ぎた後に延びた年の当日であったかと思う。
(一九一一年一月一六日チューリッヒの自然科学会席上の講義)「相対性理論」と名づけられる理論が倚...
(一九一一年一月一六日チューリッヒの自然科学会席上の講義)「相対性理論」と名づけられる理論が倚りかかっている大黒柱はいわゆる相対性理論です。
みんなは私が鼻の上に汗をためて、息を弾ませて、小鳥みたいにちょんちょんとして、つまりいそいそと...
みんなは私が鼻の上に汗をためて、息を弾ませて、小鳥みたいにちょんちょんとして、つまりいそいそとして、見合いに出掛けたといって嗤ったけれど、そんなことはない。
堺事件森鴎外明治元年戊辰(ぼしん)の歳(とし)正月、徳川慶喜(よしのぶ)の軍が伏見、鳥羽に敗れ...
堺事件森鴎外明治元年戊辰(ぼしん)の歳(とし)正月、徳川慶喜(よしのぶ)の軍が伏見、鳥羽に敗れて、大阪城をも守ることが出来ず、海路を江戸へ遁(のが)れた跡で、大阪、兵庫、堺の諸役人は職を棄てて潜(ひそ)み匿(かく)れ、これ等の都会は一時無政府の状況に陥った。
歌よみに与ふる書仰のごとく近来和歌は一向に振い不申候。
歌よみに与ふる書仰のごとく近来和歌は一向に振い不申候。
啄木鳥いにしへ聖者が雅典の森に撞(つ)きし、光ぞ絶えせぬみ空の『愛の火』もて鋳にたる巨鐘、無窮...
啄木鳥いにしへ聖者が雅典の森に撞(つ)きし、光ぞ絶えせぬみ空の『愛の火』もて鋳にたる巨鐘、無窮のその声をぞ染めなす『緑』よ、げにこそ霊の住家。
「忠直卿行状記」という小説を読んだのは、僕が十三か、四のときの事で、それっきり再読の機会を得な...
「忠直卿行状記」という小説を読んだのは、僕が十三か、四のときの事で、それっきり再読の機会を得なかったが、あの一篇の筋書だけは、二十年後のいまもなお、忘れずに記憶している。
日本国憲法施行、昭和二二年・五・三朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つ...
日本国憲法施行、昭和二二年・五・三朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
〔冒頭原稿一枚?なし〕以外の物質は、みなすべて、よくこれを摂取して、脂肪若くは蛋白質となし、そ...
〔冒頭原稿一枚?なし〕以外の物質は、みなすべて、よくこれを摂取して、脂肪若くは蛋白質となし、その体内に蓄積す。
真田対徳川真田幸村の名前は、色々説あり、兄の信幸は「我弟実名は武田信玄の舎弟典厩と同じ名にて字...
真田対徳川真田幸村の名前は、色々説あり、兄の信幸は「我弟実名は武田信玄の舎弟典厩と同じ名にて字も同じ」と云っているから信繁と云ったことは、確である。
箱を出る顔忘れめや雛(ひな)二対蕪村これは或老女の話である。
箱を出る顔忘れめや雛(ひな)二対蕪村これは或老女の話である。
上幾頭の獅子の挽(ひ)ける車の上に、勢よく突立ちたる、女神バワリアの像は、先王ルウドヰヒ第一世...
上幾頭の獅子の挽(ひ)ける車の上に、勢よく突立ちたる、女神バワリアの像は、先王ルウドヰヒ第一世がこの凱旋門に据ゑさせしなりといふ。
モーパサンの書いた「二十五日間」と題する小品には、ある温泉場の宿屋へ落ちついて、着物や白シャツ...
モーパサンの書いた「二十五日間」と題する小品には、ある温泉場の宿屋へ落ちついて、着物や白シャツを衣装棚へしまおうとする時に、そのひきだしをあけてみたら、中から巻いた紙が出たので、何気なく引き延ばして読むと「私の二十五日」という標題が目に触れたという冒頭が置いてあって、その次にこの無名式のいわゆる二十五日間が一字も変えぬ元の姿で転載された体になっている。
「グッドバイ」「オォルボァル」「アヂュウ」「アウフビタゼエヘン」「ツァイチェン」「アロハ」等々――。
「グッドバイ」「オォルボァル」「アヂュウ」「アウフビタゼエヘン」「ツァイチェン」「アロハ」等々――。
世に伝うるマロリーの『アーサー物語』は簡浄素樸という点において珍重すべき書物ではあるが古代のも...
世に伝うるマロリーの『アーサー物語』は簡浄素樸という点において珍重すべき書物ではあるが古代のものだから一部の小説として見ると散漫の譏(そしり)は免がれぬ。
明治倶楽部とて芝区桜田本郷町のお堀辺に西洋作の余り立派ではないが、それでも可なりの建物があった...
明治倶楽部とて芝区桜田本郷町のお堀辺に西洋作の余り立派ではないが、それでも可なりの建物があった、建物は今でもある、しかし持主が代って、今では明治倶楽部その者はなくなって了った。
ただいまは牧君の満洲問題――満洲の過去と満洲の未来というような問題について、大変条理の明かな、...
ただいまは牧君の満洲問題――満洲の過去と満洲の未来というような問題について、大変条理の明かな、そうして秩序のよい演説がありました。
ここからは、はるかな国、冬がくるとつばめがとんで行くとおい国に、ひとりの王さまがありました。
ここからは、はるかな国、冬がくるとつばめがとんで行くとおい国に、ひとりの王さまがありました。
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